クォーツショックに挑んだ伝説の傑作：オーデマ・ピゲ キャリバー2870の物語
1980年代、日本の安価で正確なクォーツ時計が世界を席巻し、スイスの伝統的な機械式時計産業は存続の危機に瀕していました。

この「クォーツショック」と呼ばれる激動の時代に、スイスの時計師たちがそのプライドと技術の粋を結集して生み出したのが、オーデマ・ピゲの伝説的なムーブメント、キャリバー2870です。

これは単なる技術力の誇示ではありませんでした。機械式時計の価値とスイスの伝統を守る、まさに「スイスの意地」の象徴として、世界に衝撃を与えたのです。

1986年に発表されたキャリバー2870の最大の特長は、世界初の市販された自動巻きトゥールビヨンでありながら、その常識外れの薄さにあります。

世界最薄のトゥールビヨン: ムーブメントの厚さはわずか4.8mm、ケースを含めても4.4mmという驚異的な薄さを実現しました。当時の技術では想像もつかない偉業です。

独自の巻き上げシステム: 特徴的なのは、プラチナとイリジウム製のローターが小さな弧を描いて揺れる「ハンマー巻き上げシステム」。

ダイヤルからそのユニークな動きが見えるようデザインされ、巻き上げ機能を視覚的な魅力へと昇華させました。

キャリバー2870は、当時の技術では極めて困難だった超薄型トゥールビヨンをシリーズ生産した点で、オーデマ・ピゲの卓越した技術力と創造性を象徴する傑作です。

今もなお、時計史に燦然と輝くこのムーブメントは、クォーツショックという危機を乗り越え、機械式時計の不変の価値を世界に知らしめた、偉大な物語を私たちに伝えてくれます。

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